責任能力を判断する精神鑑定の実際

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責任能力を判断する精神鑑定の実際

精神鑑定の目的

裁判のニュースのなかで、精神鑑定という言葉が登場することがあります。これは犯罪者の心理や性格を精神科医などの専門家が分析して、その者に責任能力があったか否かを裁判官が判断する際の資料とする手続きです。

 

 

責任能力とは、抽象的にいうと、事物の是非・善悪を弁別し、かつそれに従って行動する能力のことです。そして、刑法三九条は、心神喪失者の行為は処罰せず、心神耗弱者の行為は刑を減軽すると規定しています。

 

 

被告人が心神喪失であると認定されると無罪が言い渡されますが、精神保健法二九条の措置入院として、事実上、強制的な自由の拘束が課されるのが通常です。

 

心神喪失の典型例は、分裂病や躁うつ病などの精神病です。精神病のほかにも、性格が著しく偏っている異常性格者、たとえば、すぐに頭に来て暴力を振るう爆発者や人間的な感情を欠いた情性欠如者などの精神病質(人格障害)、さらには先天的に知能が未発達な精神薄弱者などが責任無能力と認定されることがあります。

 

 

 

精神科医によるテスト

精神鑑定を依頼された精神科医は、さまざまなテストを実施して、被検者の心理や性格を診断します。

 

有名なロールシャッハテストと呼ばれる心理テストでは、インクのシミを印刷してある10枚の図版を順次示して、「これが何に見えるか」を答えさせます。

 

そして、その回答を分析し、図版のどこに着目したか、その反応の内容、どうしてその反応を出したか、反応時間など、さまざまな視点から、被検者の心理や性格、精神障害の有無などを推測します。

 

 

また、WAIS知能検査では、知識、理解、数唱、単語、算数、類似の六項目からなる言語性知能検査と、絵画完成、絵画配列、積み木問題、組み合わせ、符号問題の五項目からなる動作性知能検査が行われ、各得点の小計によって言語性知能指数、動作性知能指数、全知能指数が計算されます。

 

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鑑定意見に対する評価

さて、精神鑑定医はこうしたテストを積み重ねたうえで自分なりの結論を出し、これを精神鑑定書にまとめあげて裁判所に提出します。

 

最終的に、被告人の責任能力の有無を判断するのは裁判所ですが、鑑定人の意見は少ながらぬ影響を裁判官に与えますから、鑑定に対しては検察官も弁護人も多大な関心をもっています。

 

 

もし鑑定の結論が心神喪失ということになれば、被告人は無罪となる可能性が高まりますから、検察官はその鑑定に対して不満をもつことになりがちです。反対に、鑑定の結果が責任能力を肯定するものであったならば、弁護人が鑑定に対して不満をもつことになるでしょう。

 

 

いずれにしても、鑑定人は法廷に呼ばれて、双方から尋問を受けることになります。特に、鑑定に対して不満をもっている側からの尋問は、鑑定方法に問題はなかったかなどについて厳しい追及を行うのが通例です。

 

裁判所も、特に殺人事件などの重大事件において被告人の責任能力が争われた場合には、慎重を期し、複数の鑑定人に精神鑑定を依頼することがあります。

 

判断が微妙な場合には、鑑定人ごとに意見がわかれることも少なくありません。こうした場合には、鑑定人が検察側と弁護人側にわかれて、それぞれ自己の鑑定の正当性を主張し合う、鑑定人の闘いが繰り広げられることもあります。

 

 

 

 

裁判所独自の判断も

ところで、以前と異なり最近は、精神科医が分裂病で心神喪失であると診断したにもかかわらず、裁判所が被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状況、犯行の動機・態様などを総合的に判断して、心神喪失ではないと認定する例が増えてきているといわれます。

 

 

責任能力の有無の判断は法律的な判断ですから、医学的な判断と必ずしも一致しないのですが、それだけでなく、殺人などの重大な犯行を行った被告人を無罪とすることの社会的影響や被害者の遺族の心情などに配慮する面も少なくないと思われます。

 

 

また、覚せい剤中毒患者による凶悪犯罪が多発するなかで、精神医学の考え方によれば心神喪失と診断されるような被告人であっても、安易に心神喪失と断定して無罪とするわけにはいかないという社会的要請があります。

 

 

このように裁判官は、場合によっては死刑か無罪かの分かれ目になるほどの極端な迎いが生じるような重大問題について、そして、ときには精神科医の間でも意見が異なるようなデリーケトで、しかも医学的な見方と法律的な見方とが異なるような難しい問題について、悩みながらも最終的判断を下す重責をになっているのです。

 

このような裁判のニュースに接したときは、単に判決の結論を批評するだけでなく、その結論に至った裁判官の思考過程に注目するのも興味深いと思います。

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